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「こないだ来たばかりなのに、どうしたんですか?」
「いや~修論のテーマがようやく決まって、あっちこっちお願いしなきゃいけなくてね、それで関西へ何度も足を運ぶ破目になって」
「ああそうですか。難しいことはわからないけど、大変ですね」
「まあ、好きでやってることだし。12月はおん祭も来ます。マスターにもいろいろ教えてもらはなくちゃいけないので、よろしくお願いします」
「いや~僕はもうやめて何十年だから、そうそう、このお嬢さんが、雅楽をやってるんですよ。」
「へ~そうなんですか、それじゃまた教えてください」
「とんでもない、私はまだ駆け出しで、何にも知りません」
「山本さんは今大学院でね、古典芸能をいろいろ研究されてるんだよ、学部生のころからよく奈良に通って、すっかりおなじみになったというわけ」
「わたし、確かに好きで雅楽始めたんですけど、雅楽のことはほんと、まだ何にもわからないんですよ、逆に教えてもらわなくちゃ」
「実際に雅楽をやってる人と知り合ったのは初めてだな、こっちこそお願いしますよ。」
こんな素敵な人が、雅楽を研究してるなんて、ちょっと誇らしい気分。
それから、おん祭についていろいろ教えてもらえた。
奈良の人間が東京の人に地元の祭りにつぃてレクチャーを受けるなんて、話が逆な気がするけど、私は又全然知識がないし、山本さんは専門だからほんとに詳しい。
まず、おん祭は7月1日の流鏑馬定めと言って、その年の流鏑馬のことを決めるのが、
「御祭礼事始」だって。
7月に始まってたなんて知らなかった。
そして10月1日が縄棟蔡(じょうとうさい)
これはお旅所の仮御殿の起工式といったところ。
その日は氷室神社の祭礼の日で、氷室の神様がお祭りで留守の間にこっそりやってしまうという民話がある。
お旅所のある場所が、氷室神社に近いから地の神様に遠慮したということらしい。
その縄棟蔡に奉仕するのは、大柳生の片岡家が世襲で、当日午前中に松52本青竹6本を担ぎ3里半の山道を下ってお旅所に着くと、お旅所仮御殿の立つべき位置に松を植え竹で支える。
その松の植えられたところが神の降臨の地となる。
そして、12月15日が大宿所蔡、16日が宵宮蔡、17日の祭礼と続く。
こういったことをいろいろ聞かせてもらった。
目からうろこと言うか、へ~って感心するばかりで、おん祭と言えばお渡りと屋台の店しか知らなかった自分が、恥ずかしくなった。
何時までも聞いていたかったけど、バイトがあるので、残念ながら行かなくちゃ。
「今日は良いお話をいっぱい聞かせてもらってありがとうございました。」
「いや~春野さんが熱心に聞いてくれるからつい調子に乗ってしゃべりすぎちゃったな。
ごめんなさい」
「とんでもない、ほんとに勉強になりました。これからおん祭に出るのに、なんにも知らない自分が情けなくなりました。
又いろいろ聞かせてください。それじゃマスターまた来ます。山本さん、ごゆっくり」
ほんとに残念、もっともっと聞きたかった。
それにしても、やっぱり勉強してる人は違う。私も奈良の人間としてもっと勉強しなくちゃ。
 
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