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『古事記』や『日本書紀』の伝承では、和珥氏出身とする娘が、開化,応神、反正、雄略、仁賢、継体の各王者の「后妃」になったと述べています。

その和珥氏や和珥氏の娘の生んだ王子・王女に「春日」を称するものが少なくありません。     

『日本書紀』の雄略天皇元年三月の条には、大泊瀬幼武大王(雄略天皇)の「妃」として「春日和珥臣深目」の娘が春日大娘皇女を生むとの伝えがあります。

ここでは「春日和珥臣」と春日を冠する複氏姓となっており、生まれた王女も春日を名乗っています。

春日臣は、添上郡春日郷のあたりを本拠とした氏族で、のちに和珥氏が春日郷周辺に勢力を伸張して、「春日臣」と「和珥臣」との間には同族的繋がりが生じ、「春日和珥臣」というような複氏姓が形づくられたのであろうと考えられます。

春日臣の1部はのちに大春日を称し、天武天皇13年(684)には、大宅、栗田、小野、柿本、櫟井とならんで朝臣(アソミ)を与えられています。

春日の地域は、昔からこのように和珥氏や春日の臣等の氏族の移住地域でした。

そしてこの春日という地域はいわゆる春日山麓の春日野台地のみを指すとは限らず、率川の流れる春日野台地から、古市さらに櫟本におよぶ地域をも意味していたことが知られています。

ただ、春日野台地を中心とする地域を「春日」と限定している用例もあります。

『日本書紀』武烈天皇即位前紀の影媛の悲歌。

 「(いそ)(かみ) 布留を過ぎて (こも)(まくら) 高橋過ぎ (もの)(さわ)に 大宅(おおやけ)過ぎ 春日(はるひ) 春日(かすが)を過ぎ 妻ごもる 小佐保(おさほ)を過ぎ 玉笥(たまけ)には 飯さ(いい)へ盛り 玉盌(たまもひ)に 水さへ盛り 泣き(そほ)ち 行くも 影媛あわれ」

物部大連麁鹿火(アラカビ)の娘影媛は、平群大臣真鳥の子鮪(シビ)と結ばれていたところに、太子(ヒツギノミコ)のちの武烈天皇が横恋慕して2人の仲をさこうとして、鮪を乃楽山で殺してしまいます。

その鮪の死を悼んで詠んだ歌がこれです。

石上の布留(天理市布留)から大宅(高円山の西麓、奈良市百毫寺の西あたり)そして、春日、小佐保(奈良市佐保川町あたり)がよまれています。

この歌では「春日」は大宅と小佐保の間、春日山麓の春日野台地の狭義の春日を示しています。

前者は葛城地方から東北に春日山を望んだあたりであり、後者は奈良山あたりから葛城地方を望んで歌った望郷の歌と、視点の違いが指摘されています。

春日の地に大和王権のとかかわりのある春日県があったことは、『日本書紀』の綏靖天皇二年正月の条の別伝に、

皇后五十鈴依媛が春日県主大日諸(オオヒモロ)の女糸織媛であることが記されていることにも反映されています。

その春日県がやがて発展して、春日の国と称されるようになったと思われますが、この春日の地域に和珥氏の勢力が伸張していたことは『古事記』の雄略天皇の段で、大長谷若建命(雄略天皇)が丸邇(和珥)佐都紀臣の娘の袁桙杼比売を妻どいして「春日に幸行」した説話からも推察されます。

『日本書紀』継体天皇七年九月の条の古歌謡

「八島国 妻まきかねて 春日の 春日の国に 麗し女を ありと聞き手 宜し女を ありと聴きて・・・・」

この歌は勾大兄皇子(のちの安閑天皇)が春日皇女を妃に迎えた折の歌として位置付けられています。

この和邇氏の本拠地は今の天理市和邇町、櫟本あたりです。

そしてそこには今も和邇下神社があります。

和邇氏は古代大和の有力豪族でありながら、政治的活躍はあまりなく、目だたない存在です。

それでいながら先に書いたように多くの后妃をだし、その数は他の氏族をはるかにしのいでいます。

そして16の氏族と同族となっており、これは武内宿禰の同族しか対比できる氏族がない数です。

この和邇氏が春日社ができる以前の春日の地を支配しており、その地で神祀りをしていると考えられます。

 

 

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