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こうした私の思いとは関係なく、おん祭の舞楽は粛々と
進んでいった。
散手、貴徳が番舞。どちらも面をつけ、鉾を持つ。
そして、抜頭。
インドから伝わった舞。
最初笛の乱声だけで舞われる。
4時間近く吹き続けた後のこの乱声は、
例年なら少しうんざりするところだが、
今日の私は笛を吹くことが楽しい。
マスターから譲られた笛は、昔から吹いていたように
私に寄り添って、私の意のままに音を出してくれる。
何時までも何時までも、吹き続けていたい気分。
この曲が終われば、最後の落蹲。
いよいよ、今年のおん祭もその曲を持って終わる。
そして、私のおん祭も。
曲は最初、笛の音頭のみが演奏する小乱声から始まる。
いよいよ私のこの3年間の集大成。
吹き出す前から緊張感と不安が高まる。
マスターどうか私を見守ってください。
その時、マスターのうなずく顔が見えたような気がした。
落ち着いてと、心の中で思いながら静かに力強く息を入れる。
伸びやかな笛の音色が、澄み切った夜空に吸い込まれていく。
そして太鼓の音が続く。
最後に太鼓が加えられ、小乱声が終わって当曲。
2人の舞人が土の舞台に登場する。
2匹の龍が舞い遊ぶという姿を表したといわれ、
別名双竜舞。
舞人が私の笛に合わせ、軽やかに舞う。
千年をはるかに越える昔よりこの奈良の地に伝えられた舞楽。
そして八百年を超える昔から、連綿と続けられている、このおん祭。
今私は、そのおん祭の掉尾を飾る落蹲の音頭を吹いている。
夢であったなら覚めないでほしい。
少しでもこの素晴らしい時間が続いてほしい。
今は緊張感も、うまく吹きたいといった意識もなにもない。
ただこの瞬間、この時間、笛を吹ける喜びに心は満たされていた。
舞人が舞台を降りていく。
最後の止め手を吹く。
高麗笛独特の澄んだ笛の音が、高く高く初冬の冬空へと上っていく。
これをもって今年のおん祭の舞楽はすべて終わった。
時刻は11時前、若宮の神様は本殿に17日中にお帰りにならなければいけない。
余韻に浸るまもなく、帰りを急ぐ神官たちが慌しく整列し,徹饌の神事が執り行われる。
そして環倖の儀が始まった。
灯火がすべて消され、1瞬にして、あたりは平安の昔と変わらぬ闇に包まれる。
その闇の中、笙の音がその繊細な音色を奏で、篳篥、笛と加わり道楽が始まる。
神官が上げる警畢の声が闇の中から厳かに沸きあがり、道楽に和していく。
深深と冷えを増した冬の深夜、仄かな松明の明かりが道を照らし、松明にたきこめられた香の馥郁たる香りが辺りを包む中、私も無心に笛を吹く。
どうかこの笛の音が、娘さんの待つあの世への道楽となって、マスターを導きますように。
笛を吹く私の目からは滂沱として涙がこぼれ頬を伝っていく。
涙でかすんだ参道には私のこれからの道を指し示すように松明のこぼれ火が点々と真っ直ぐに伸びていた。
     
       完
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