category:From マスター
あくる日、詳しい情報がもたらされた。
一緒に行った人と、ジープを借りて、サーリプトンが、
始めて紅茶を植えた農園を見に行った帰りに、
運転を誤って谷へおちたということだ。
名前は大木規彦。
喫茶店の経営者と報道された。
その報道を見ても、まだ信じられなかった。
うそでしょう。
飛火野であったのが最後になるなんて。
あの時、帰ってきたら渡すものがあるって約束したのに。
お土産も頼んだのに。
そんなことありえない。約束を守らないはずがない。
駄々っ子のように、事実を打ち消していた。
その時、祐介から電話があった。
思わず祐介にうそでしょう?
そんなことないよねと必死で訴えた。
「僕だって信じられない。とにかく明日奈良へ行くから。」
「早く、お願い早く来て」
「わかった。朝1番で行くから」
電話を切ったあとでも、呆然としていた。
涙は出なかった。
心の中でまだ必死に打ち消していた。
あくる日駅まで迎えに行った。
ほんとなら、マスターの店で会うのに・・
朝から店の前まで行ってみたが、張り紙がそのままだった。
やはりマスターはもういないのだ。
だんだんと事実を受け入れる自分がいた。
「この前、マスターから電話を貰ったって言ったよね」
「うん、出発前に電話があったって言ってたね」
「これを頼まれたんだ」
「これは?」
「マスターの笛。実は前に雅楽で吹く笛を実際に見てみたいって、マスターにお願いしたことがあるんだ」
「そしたら、この笛を家から持ってきてくれて、
もういらないから上げるって言われたんだけど、
こんな高価なものを頂くわけには行かないから、
とりあえず、暫らくお借りするということで研究室に
保管してあったんだけど、この前の電話で、
奈美ちゃんに使ってもらうから、返してほしいと依頼されたんだ」
「帰ってきたら上げるものがあるって、おっしゃってたけど、これが・・」
「そうなんだ。おん祭に使ってほしいから、間に合うようにって」
「これを私が頂いていいのかな」
「もちろんだ。電話でこうもいわれた。」
「笛は吹いてこその笛、息を入れない笛はただの竹の筒にすぎない。
今度、奈美ちゃんがこの笛を吹いてくれたら、笛が笛としてよみがえる」ってね。
だから、どうかマスターの形見として受け取ってあげてくれ。そしてこの笛を吹くことが、マスターに対する最大の供養だと思う。」
「わかりました。ありがたくいただきます。
そして明日、おん祭で一生懸命吹かせてもらいます」
「うん、僕からもお願いする。」
17日おん祭の当日を迎えた。
もちろん、私の手には、マスターの形見の笛があった。
今日も初冬の奈良は、朝から冷え込んだが、その分、抜けるような青空が広がっていた。
昼間のお渡りの熱気が残るお旅所には、寒さにも関わらず多くの人が、芝舞台を取り囲んでいた。
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