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朝、近鉄奈良駅で車に乗せてもらって出発。
なんかほんとに私で良いのかな?
この展開に未だついていけない自分が居る。
失敗したらどうしよ。
マイナス思考ばっかりで、行く途中もすっかり黙り込んでしまっていた。
「どないしたんや、えらいおとなしいな。気分でも悪いんか?」
篳篥の足立さんが心配して声をかけてくれた。
「いえ、ちょっと今日のことが心配で」
「どうってことあらへん、練習と同じように吹いたらええねや、まあ気楽に考え」
そう言われてもなにせ初めてのことだし。
目的地に到着。
すぐに装束に着替えて、スタンバイ。
お祭りが始まる。
合図に応じてまず笛。
乱声(らんじょう)、文字通りリズムがなく、拍子もなくいわば勝手に吹いてるように聞こえる曲。
合図に従って止め手。
曲の終わりは止め手と言って、決まったフレーズがある。
そして太鼓が入る、ほんとは鞨鼓も入るんだけど、今日は3人で、太鼓だけ。
ふ­~、とりあえず無事吹けた。
ちょっと落ち着いてきた。
「え~と、次何吹く?」
「え!!決まってないんですか?」
「うん、何でもええで」
そんなもんなの?と言っても・・
「それじゃ越天楽でも良いですか?」
「ああ、ええよ、そしたら、平調の曲で撤餞は、鶏徳でええかな?」
「ああ、はい1回練習したことあります」
「最初は音取りな」
平調というのは、曲の調子、まだ良くわからなけど、雅楽には六調子あって、壱越調、平調、双調、黄鐘調、盤渉調、太食調がある。
そして、今回その中の平調の曲を選んだから
、最初に平調の音取りを演奏する決まりだ。
前にも書いたけど、音取りは文字通り音合わせ。
笙、篳篥、笛の順で、音を合わせていく。
これはごく短い曲、そして越天楽。
まず笛、そして笙、篳篥が続く。
もういや、口の中がからから、音もでにくい。
こんなに緊張して吹くのは初めて。
ああ、やっと終わった。
止め手を吹く。
もう汗びっしょり。
お祭りは淡々と続いて、そろそろ終わり。
神様にささげた、お供えを引き上げるのが撤餞。
これで終わりだ、やれやれ、無事に終われそう。
鶏徳、そんなに難しい曲と言うわけでもないけど、練習はあんまりしていない。
音頭、そして笙、篳篥、あ、今何処?エ、何処吹いてるんだっけ?
どうしよ、わからない。
ほんとにパニック。
もう適当に吹くしかない。
終わりの合図だ、止め手。
最低、篳篥を聞いても何処を吹いてるか全然わからなかった。
鞨鼓もないし、目安のつけようがない。
お祭りが終わったら,直会(なおらい)。
わ~、吸い物に松茸。
良い香り。
祭の世話役さんが、「今日はご苦労さん、別嬪さんが、笛を吹いてくれはったから、神さんもよろこんではるやろ」
わ~恥ずかしい、あんな失敗をしてしまって、喜んでもらえるどころか、申し訳なさでいっぱい。
もっと、もっと練習しなくちゃ、反省ばっかり。
あくる日、学校で。
「奈美!」
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